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COLUMN先物コラム

原油価格急落のなか気を付けておきたい世界の石油需給状況

更新日:2017/03/23

【米原油在庫増から失望感を強める】
 石油輸出国機構(OPEC)とOPEC非加盟国の協調減産が合意に至って以来、54ドル前後での推移が続いていたWTI原油価格は、3月上旬に急落場面を演じた後も、低迷した状態が続いています。

 NY市場においてWTI原油価格が急落したのは現地3月8日の取引でした。この日、52.79ドルで取引を開始したWTI4月限は、その後、売り崩されて前日より2.86ドル安の50.28ドルで取引を終えました。

 この日、原油価格が急落したのは、発表された米石油協会(API)統計において米原油在庫が 820万9,000バレル拡大した 5億2,839万3,000バレルに達したことで、原油在庫に過剰感が強まったことが主な背景となっています。

 特に、協調減産が実施されながらも原油在庫が拡大を見せているばかりか、この在庫水準が前年同時期の4億9,084万バレル、そしてさらにその前年となる2015年の同時期に記録した4億1,543万バレルを共に大きく上回っていたことが、市場での失望感を強めたと考えられます。

 とはいえ、米商品先物取引委員会(CFTC)の報告によれば、大口投機家の3月14日時点の買い数は前週の68万2,176枚に対して68万7,026枚となっています。つまり大手筋は依然として強い買い気を見せているのです。

 ただその一方で、3月14日時点の売り数は前週の17万3,651枚から25万3,226枚へと大きく拡大し、その結果として3月14日時点の買い越し数は、前週の50万8,525枚から43万3,800枚へと縮小しているのです。

 つまり、現在の原油価格の低迷は、買い気が後退したことではなく、新たな売り圧力が強まったことによってもたらされたものと言えるのです。

 新たに売り圧力が強まった背景として考えられるのが、協調減産が合意に至ったばかりでなく、高い水準で減産が順守されているにもかかわらず、前述のように米国内の原油在庫が大幅に拡大したことです。

 このように産油量の調整が実行に移されても原油価格の低迷が促されているという事実を受け、OPECが今後、どのような措置を取ってくるのかが注目されます。そのヒントになりそうなのが、現地3月16日に行われたブルームバーグ社によるサウジアラビアのファリハ・エネルギー産業鉱物資源相のインタビューです。

 同エネルギー産業鉱物資源相は、このインタビューにおいて、原油在庫が過剰と考えられる水準を維持し続けるようであれば、協調減産を延長する可能性もある、との見方を明らかにしました。

【2017年は供給過剰=IEA】
 国際エネルギー機関(IEA)は、協調減産が実施されて期間中は世界的には在庫引き締まりが見込まれるものの、協調減産が終了する今年後半期以降は在庫は拡大に向かい、結果として2017年を通しての石油需給は、1日当たり9万バレル程度の供給過剰になる、との予測を明らかにしています。

 つまり、すでに大幅な拡大を見せている米国内の原油在庫は、協調減産が終了すればよりいっそう供給過剰感が強まることが予想されるのです。

 このような事態を避けるためにOPECとして取り得る措置の一つは、ファリハ・エネルギー産業鉱物資源相が言及した協調減産期間の延長でしょう。また、その可能性を示すことも供給引き締まり観測を強めるきっかけになり得ることから、協調減産の期間延長を示唆することでこれ以上の原油価格の下落を防ごうというのも、ファリハ・エネルギー産業鉱物資源相の狙いと思われます。

 とはいえ、原油需給が必ずしも供給過剰な状態にあるとは言えないのも実情です。というのも、前述の原油在庫の大幅拡大は米国内での状況であり、世界的に見ると需給の引き締まりが見込まれるからです。

 米国エネルギー省エネルギー統計局(EIA)が現地3月7日に発表した短期見通しによると、今年12月時点の世界のエネルギー在庫は1月時点の30億9,100万バレルから30億6,700万バレルに縮小する見通しとなっています。

 ただ、ここで気を付けたいのはEIAではOPECの産油量は拡大に向かうと予測している点です。EIAによると、OPECの1月の産油量(日量)は3,227万バレルでした。しかしながら、4月の産油量は減産合意において目標とされた3,250万バレルとされながらも、それ以降は次第に増加傾向に向かうとの見方が示され、10月以降は3,300万バレルを超えるエネルギー生産が続くとされているのです。

 このようにOPECの増産見通しが示されながらも世界的には年末にかけて在庫が縮小すると予測されているわけです。そのため、OPECが仮に減産体制を年内いっぱい継続した場合には、世界の石油在庫は現在予測されている以上に減少する可能性が高まることになります。

 仮に、OPECの産油量が12月まで減産合意において設定された目標産油量3,250万バレルを維持した場合には、米国以外のOECD諸国における石油在庫量は6月、7月、9月以外は減少することが見込まれるのです。

 つまり、あくまでもOPECがどのような政策を取るのか、ということがポイントとはいえ、米国内かそれとも米国外かによって石油の在庫状況に違いがある、という点には注意が必要です。

 前述のCFTC報告において大手筋が依然として根強い買い気を見せていることは、米国内だけではなく米国外の石油在庫にも目を向けた場合、必ずしも石油の供給過剰感が強いとはいえない状況にある、という認識が背景になっていると考えられます。

 新たな売り勢力の登場によって急落場面を演じているWTI原油市場ですが、世界的に見た場合、石油の在庫は必ずしも供給過剰感が強いというわけではありません。比較的短い時間で定期的に発表される石油の在庫報告が米国内のものであることから、市場の動きは米国内の在庫推移に反応を見せていますが、中長期的な視点で見た場合には、世界的な需給バランスの確認が重要と思われます。

執筆者:平山 順氏(ひらやま・じゅん)

中央大学法学部卒、英国留学後
(株)みんかぶに入社。現在主任研究員。
商品全般に通じ特に穀物市場を得意とし、テクニカル分析には定評がある。
1999年にシリーズ3(米国先物オプション外務員資格)に合格。

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