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COLUMN先物コラム

ハリケーンで露呈した歪みが価格差に現れそうなエネルギー市場

更新日:2017/09/21

 現地9月11日の取引以降、上値を追う場面を演じたNY原油は、50ドルに達したところで伸び悩みに転じた後、現地20日の取引で50ドル突破を示現しました。

 現地9月13日の取引では国際エネルギー機関(IEA)が発表した月報において、17年の世界石油需要見通し(日量)を、前月に発表した予測150万バレル増から前年比160万バレル増へ上方修正したほか、8月の世界の石油供給量(日量)を前月から72万バレルの減少としたこと、さらには米国エネルギー機関(EIA)の週報において石油製品在庫が一段と減少したことが需給引き締まり観測を強めたことが買いを呼んでいます。

 そのうちIEAの発表ではOPECの産油量(1日当たり)は、前月に比べて21万バレル減した3267万バレルと発表されると同時に、減産順守率が前月の75%を上回る82%へ改善したことが明らかになりました。

 これで買いに弾みが付いて値を伸ばし、前述のように50ドル手前で伸び悩む場面も見られていたのですが、ハリケーンの後遺症が価格を押し上げるに至っています。

 特に、市場のOPECの減産協調に対する市場の意識は強く、ルアイビ・イラク石油相が協調減産期間の終了までまだ猶予があるとしながらも、「協調減産に関して複数の選択肢を検討」し、「1%の追加減産や2018年末までの協調減産延長が選択肢に含まれている」と述べたことも需給引き締まり観測を根強いものとしているとみられます。

 ただ、それでもOPECの協調減産の継続については見通しに不透明感が強いのは事実です。さらに、原油の場合、独自の要因が手掛かりとなって今後の上値は重いと予想されるのです。

 その第一の理由として考えられるのが米国で猛威を振るったハリケーンの影響です。現地13日に発表された米国エネルギー情報局 (EIA)の週間統計では、原油輸入(日量)は前週比で60万バレル減少した648万バレルとなったことが明らかにされました。同時に、原油処理量(日)も40万バレル減少した結果、1400万バレル割れ直前となっています。

 その一方で原油在庫量は、輸入が減少しているにもかかわらず生産量が回復したことを受けて前週比で588.8万バレルの増加を記録しているのです。

 ちなみに石油製品在庫はガソリン在庫が前週比842.8万バレルと大幅な減少となったほか、(予想210万バレル減)、中間留分在庫は前週比で321.5万バレルの縮小(予想150万バレル減)となっていました。

 その翌週となる現地20日に発表された在庫報告においても原油在庫量は459.1万バレルの増加となる一方、ガソリン在庫は212.5万バレルの減少、そして留出油の在庫は569.3万バレルの減少と発表されました。

 つまり、原油在庫量は増加する一方、ハリケーンの影響で製油所の稼働中断が余儀なくされた結果、石油製品の在庫は大幅な減少を強いられているのです。実際、この報告において製油所稼働率は前週比で2.0%低下した77.7%と発表されました。

 この報告において明るい材料となるのは、ガソリン出荷量の回復でしょう。この時の発表では総出荷量(日)は前週に比べて24万バレル減少した1972万バレルにとどまったものの、そのうちガソリン出荷量は前週比で46万バレルの拡大と伝えられました。

 このようななか注目されるのが、原油在庫は今後も拡大を続ける可能性が高い、という点です。原油在庫が拡大を続ける可能性が高いと見られる理由は、米国の原油生産が好調を維持していることにあります。

 EIAは10月の米国主要シェール オイル産地の産油量(日)を過去最高となる日量608万バレルに達するとの見通しを明らかにしました。この産油量は前年比では15.3%増、前月比では1.3%の増加となります。

 シェールオイルの産地は内陸部に存在するため、ハリケーンによる影響が限定されており、これが好調な生産を維持できる背景となっています。これに対し、製油所はメキシコ湾岸地域に集中しているためハリケーンの影響を受けやすく、稼働率が低い状態が続いていることが、米国内の原油処理量を低下させると同時に、石油製品在庫が停滞する状況を招いているのです。

 シェールオイルの生産量拡大に伴い米国の産油量が増加するなかハリケーンが襲来したことにより、米国内での原油生産と石油製品生産、そして原油在庫と石油製品在庫の産地の偏りにより生じたバランスの歪みが明らかにされているのです。

 ドライブシーズンの終了に伴い、米国内のガソリン需要が増加する可能性は低下しています。しかしながら、原油産地と製油所の地理的な偏りという米国内のゆがみが、在庫の推移の差という形になって現れています。それだけに、今後、製油所の稼働率がどの程度、そしてどの程度のスピードで回復してくるか、ということがポイントになってきますが、それでもしばらくの間は原油在庫が膨らむ一方、石油製品の在庫は減少という傾向は維持されそうで、これが原油価格と石油製品価格の値開きに現れてくることになるかもしれません。

執筆者:平山 順氏(ひらやま・じゅん)

中央大学法学部卒、英国留学後
(株)みんかぶに入社。現在主任研究員。
商品全般に通じ特に穀物市場を得意とし、テクニカル分析には定評がある。
1999年にシリーズ3(米国先物オプション外務員資格)に合格。

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