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COLUMN先物コラム

ハリケーンシーズン到来でも高止まりを想定しにくい理由

更新日:2017/09/08

米国ではハリケーンシーズンを迎えており、早くもメキシコ湾岸地域で被害が発生しています。今年も8月25日にはハリケーン"ハービー"がメキシコ湾岸地域を襲い、これに伴いメキシコ湾岸地域では石油生産施設は操業停止を余儀なくされました。

ウォールストリートジャーナル紙などが伝えた報によると、ハービーの襲来に伴って発生した豪雨被害の影響で8月27日時点で全米の約12%にあたる原油処理能力が停止しました。

米エネルギー省(DOE)は、現地9月4日午後の時点では8ヶ所の製油所が稼働再開を見送っているほか、停止している製油能力は米国全体の11.4%を占める日量210万バレルに達していたことを明らかにしました。

メキシコ湾岸地域には米国の原油生産並びに石油生産プラットが集中しており、これらの製油所が米国の石油精製能力全体に占める割合は約50%に達するほか、原油生産量が占める割合は20%に達します。

原油生産並びに石油生産施設が極端に集中する地域へのハービーの襲来は米国内の石油需給の引き締まりを想定させ、NYMEXガソリン先物市場では中心限月の10月限が1ガロン=1.7825ドルと、日中ベースでは2015年7月以来の高値を付ける場面が見られました。

このような石油価格の高騰を受け、米国政府は、原油並びに石油生産施設の操業停止を背景とした原油や石油製品価格の上昇を抑えるために、2012年以来、5年ぶりとなる戦略備蓄在庫の放出を決定しています。

今回のハービーによる被害を受け、改めて思い起こされるのが、カタリーナ、リタといった過去に深刻な被害をもたらしたハリケーンです。

実際、今回のハービーの襲来でも石油生産施設の操業停止が余儀なくされて石油供給量は減少を強いられているだけに、ハリケーンシーズンを通して供給の引き締まりを警戒する動きが見られることになるでしょう。

ただ、需給の引き締まりを想定するうえで重要になってくるのが米国の石油産業の内訳の変化ではないでしょうか。

というのも、ハリケーン「カタリーナ」、「リタ」が発生し、メキシコ湾岸地域に未曽有の被害をもたらしたのは2005年当時の米国は主要輸入国だったものの、その後のシェールオイル革命を経た結果、2017年現在、石油の主要輸出国に変化しているからです。

カトリーナ襲来のあった2005年と2017年の違いを確認してみましょう。米国エネルギー省エネルギー統計局(EIA)によると、ハリケーンカトリーナが襲来した2005年8月第4週目における産油量(1日当たり)は542万7,000バレルでした。これに対し、2017年8月第4週目の産油量は953万バレルへと膨らんでいます。

このような大幅な増産を受け、原油並びに石油生産品輸出量も2005年8月第4週時点の111万5500バレルに対し、2017年8月第4週時点では541万1000バレルに拡大しています。

さらに、このような生産量の増加は米国内の石油在庫の拡大ももたらしています。同じくDOEによると、現地8月25日時点の原油在庫は4億5780万バレル、そしてガソリン在庫は2億2990万バレルとなっています。でいずれも過去5年間で第2位の量に達しています。

これに対し、2005年8月下旬時点の在庫は原油が約3億2000万バレル、ガソリンが2億1,000万バレル前後となっていました。

つまり、現時点の原油、ガソリンの在庫はいずれも2005年当時を上回っているばかりか、生産量そのものが拡大しているため今後もハリケーンの度重なる襲来が無ければ供給量は安定的に推移すると予想される状況にあります。

なお、2005年当時と2017年現在の在庫を比較した場合、ガソリン在庫の差は原油在庫の差に比べると比較的わずかな差にとどまっています。ただ、それでも米国の原油はガソリン生産に適した性質の軽質原油が中心であるため、原油在庫からの生産が可能、という事情が背景になっていると考えられます。

このように高い水準の輸出、在庫を保有する米国がハリケーンの襲来を受けた場合、原油並びに石油製品の生産停止により影響を受ける範囲が異なってくると考えられます。

ハリケーン襲来時の石油生産施設の操業停止は、米国内のみならず、米国からの石油輸出量減少が促される可能性が高く、これによって、2005年のハリケーン襲来時よりも世界的な影響をもたらす可能性が高まっていると考えられるのです。

BP石油統計2017年6月版によると、米国の2016年度の石油製品の純輸出量は日量205万5000バレルで世界最大となっています。また、世界の総石油製品輸出量は2304万1000バレルだったため、米国の石油製品純輸出量は世界全体の約8.9%に当たることになります。

そのため、米国の原油並びに石油製品生産停止が長引けば同国の石油輸出量も減少することになり、米国からの石油輸入が大きいメキシコ、カナダなどの地域は供給量の引き締まりに直面するリスクが高まることになるでしょう。

さらに、石油生産施設の操業停止を受けて米国に向けた石油製品輸送需要が急激に増加したことを受けてタンカー運賃が上昇しているとも伝えられています。このタンカー運賃の上昇は、米国外からの石油輸出入にも影響を与えることになりそうで、ハリケーンをきっかけにした米国発の石油価格上昇の波はじわじわと広がりを見せる可能性もありま
す。

ただ、この価格の上昇も長くは続かないと考えられます。というのも、前述のように米国内の原油並びに石油在庫は高い水準にあり潤沢感が強いと見られるからです。

そのため、石油生産施設の操業停止が長期に渡らなければ、在庫の縮小は見られたとしても需給が大幅に引き締まる可能性は低く、ハリケーンを手掛かりにした価格の上昇も一過性の動きにとどまると予測されます。

新たなハリケーン「イルマ」はメキシコ湾岸地域ではなくフロリダに上陸する可能性が高まっています。その一方ではメキシコ湾岸地域では石油生産施設の稼働再開の動きが広がってきました。

今後のハリケーンには依然として注意する必要はあります。ただ、米国自身が主要産油国へと転じ、また主要生産国へと転じるきっかけとなったシェールオイルは内陸での生産となることからハリケーンの影響を比較的受けにくいこと、さらには米国内の石油在庫が潤沢という現状を見る限り、ハリケーン襲来が原因となっての石油価格の高止まりは想定し辛いのが現状ではないでしょうか。

執筆者:平山 順氏(ひらやま・じゅん)

中央大学法学部卒、英国留学後
(株)日本先物情報ネットワークに入社。現在主任研究員。
商品全般に通じ特に穀物市場を得意とし、テクニカル分析には定評がある。
1999年にシリーズ3(米国先物オプション外務員資格)に合格。

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